米国民はバラク・オバマ上院議員(47)を44代大統領に選んだ。史上初の黒人大統領に未来を託したのだ。世界的な威信と影響力も失いつつある米国は、歴史の転換期を迎えつつある。米国はどこに行くのだろうか。【國枝すみれ、写真はいずれもAP】
私の寝室にはオバマ氏のポスターが張ってある。アンディ・ウォーホルの作品みたいでカッコ良かったという理由もあるが、オバマという人物に興味がわいたのだ。
ロサンゼルス特派員だった2年前、イリノイ州で初めてオバマ氏の演説を聞いた。「戦争、不平等、不正義、腐敗--。世の中、こんなものさとハスに構え、あきらめることは簡単だ。だが、希望とは問題を無視することではない。力を合わせれば世の中を変えられると信じることだ」。正直、いいなと思った。
昨年12月、予備選を間近に控えたアイオワ州で、何度も演説を聞きに来たという白人の中年女性が「オバマにほおにキスされた」とはしゃいでいた。横にいた女性の夫に「面白くないんじゃない?」と聞いたら、「オバマなら許せる」とほほ笑んだ。
日本人男性からよく「オバマの顔は米国ではハンサムなの?」と聞かれるが、オバマ氏は間違いなくハンサムだ。コメディアンのビル・マー氏の言葉を借りれば、オバマ氏は政界のハル・ベリー(黒人の父と白人の母を持つ美人女優)なのだ。「黒人女性と交際することを考えもしない白人男性でも相手がハル・ベリーならやすやすと人種の壁を越えるだろう。それと同じで白人はオバマに投票する」
それでも、どこかで信じることができなかった。米国人が果たして黒人大統領を選ぶだろうか。だが、演説を聞いて思い直した。オバマ氏は「我々はいつも、我々自身の心の中にある疑い、恐れ、皮肉な態度(シニシズム)と闘っている」と話した。
そうなのだ。「できっこない」という気持ちを乗り越えることからすべてが始まる。若いころ、男性から「女のくせして」とよく言われたし、「どうせ女だから」と自らの可能性に枠をはめ、努力をあきらめた女性も見てきた。
若過ぎる、金がない、学歴がない--。多くの米国人が夢をあきらめている。だが、もっと苦労したであろう黒人のオバマ氏に「望めば変われる」と励まされ、呪縛から解き放たれたのだ。
オバマ勝利で世の中変わるのだろうか。
まずは株価。「今回ばかりはそんな状況じゃない。特効薬にはならない」。外資系投資会社の日本人社員が匿名を条件に話してくれた。「米国の影響力が頂点のときなら、新政権に代わったことで政策変更への期待から株価が上がることもある。だが今は米国の力が落ちている。株価への影響は限定的になるだろう」
この社員によれば、8月まではサブプライムローン問題は人ごとだった。ところが9月に証券業界第4位のリーマン・ブラザーズが破綻(はたん)すると風向きが変わった。世界同時株安になると社内は浮足立ち、「株価に殺される」「こんなひどい事態は初めて」「タイタニック号だ。沈むときは一緒」といった会話が飛び交った。
「自分たちが何をやってきたのか、本当は何が起きたのか、いまでもよく分からない」。米国では頭脳に自信のあるエリートたちは投資銀行に就職してきたが、その彼らが敗北感にあえいでいる。投資銀行のビジネスモデルは完全に壊れた。リスクヘッジのつもりでやったことがすべて裏目に出た。社員は言う。「米国の力、威信がかなり落ちている。米国人は自信喪失している。試練の時がきた」
金融危機は既に実体経済に波及している。オレゴン州の地方都市に住む知人は「商店街の買い物客が激減し、道路もすいている」とメールしてきた。保守とリベラルの和解を主張してきたオバマ氏だが、いま最大の懸案は雇用の確保など経済問題だ。だが米政府の財源は底をついている。
東大の宇野重規准教授(政治思想)は「国民の高揚感が続く間に経済を立て直さないと、期待がバッシングに変わる可能性がある」と心配する。
外交も課題が山積だ。イラク戦争に最初から反対したオバマ氏は中東政策を転換するとみられるが、米テンプル大現代日本研究所のロバート・デュジャリック所長は「中東では民主主義は必ずしも自由をもたらさない。平和と民主主義も(中東では)相性はよくない。選挙をしても人権重視の価値観を持った人間が政権につくとは限らない。オバマはその点をどこまで分かっているだろうか」と懸念する。
宇野准教授によれば、米国の民主主義の本質は「草の根コミュニティーによる自治参加」だったが、ブッシュ政権で変質した。「軍事力で統合をはかり、形式的な選挙をして親米政権を作る。それを民主主義と定義すること自体、そもそも間違っていた」
今の米国に異端的民主主義を拡大するエネルギーはない。「地盤沈下する米国が今後、民主主義のモデルを内外に提供できるのか、オバマ氏が実験をすることになる」(宇野准教授)
投票日、カリフォルニア州の友人がメールを送ってきた。「知人の黒人教員は昨夜はうれしくて一睡もできず、投票所が開くと同時に駆け込んだ。それでも7番目だったそうよ」。確かにサミットで集まる各国首相・大統領の中で、真ん中に立つのが黒人。この意味が世界に発するメッセージは大きい。
だが、桜美林大の上坂昇教授(米国論)は「間もなく黒人はがく然とするのではないか」と暗い予測をする。オバマ氏が大統領となった以上、自分たちの社会的地位が低迷する理由として人種差別を挙げるわけにはいかなくなり、努力が足りなかったと結論づけられてしまう可能性がある。さらに、上坂教授は「利益集団化した黒人が大統領となったオバマ氏に対して、黒人閣僚の登用や黒人優遇制度を作るよう圧力をかけるかもしれない」と心配する。
最新の世論調査によれば、「オバマ政権で人種関係が良くなる」との回答は黒人で60%に達するが、白人では38%。白人の43%は「変わらない」とみているのだ。
「状況が良いときはいい気にならず、状況が悪いときもあまり落ち込まない」。ローリングストーン誌の取材にそう答えたオバマ氏。
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